★おとんのペンキセット

おかんから、電話で。
庭仕事しているとおとんのこといろいろ思い出すんやて。
 
おとんは庭いじりが大好きやったからな。
 
おとんはもうずっと治らない病気てわかっていたから
物置の中みると、やがて車の運転できなくなったときのために、
家に必要なペンキの色や、あたらしいハケや、
ねじ、工具、なんねんも買いに行かなくてすむように、ぜんぶ揃えていたんやて。
 
「だから、新品の道具がいっぱいあるの」て、おかんが電話でゆってた。
「あと何か買い忘れている道具ないかな、、、とか言っていたの」って。
 
おとんは、自分が具合悪くなってきても、たまには庭いじりをして
ひまつぶししたかったんかな。
盆栽をのせる木の台にペンキ塗りたかったようだよ。
 
おとんも、死ぬまでにしたいこと、とか、
寝込む前にしておきたいこととか、いろいろ考えたんやろな。
ほんとうは、怖かったんやろな。
 
おかんも、そんなおとんとずっといっしょで怖かったんちゃうかな。
だから、お医者さんのいい結果ばかり信じて
悪い結果ちゃんとみようとしてなかったな。