★桃のバット 魔法のバット o(・Ω・

実家に、大きな桃の花の木があるん。

いま、10分咲きで。
一枝一枝が、野球のバットのように、お花で、みっしり埋め尽くされてるん。

ハシゴを持ってきて、桃の木の所において。
一メートル50センチくらいの、大きな枝の束を、キッチンバサミで切ろうとして。
・・・切れなくて。o(・Ω・;
ぼくは全体重をかけて、枝に「むうおおお!」てぶら下がって。
裏のマンションの人たちが、目を合わさないように、ぼくを不審者のように見てて。少しドキドキして。

バキッ!て折った。

おとんが居たら、怒られそうじゃけど、おとんは死んだから、勝手に枝を折っても怒られないんじゃった。
  
その折れた部分を、濡れたキッチンペーパーでぐるぐる巻きにして、平ゴムで巻き。
ジップロックで包み、花瓶がなくても大丈夫なようにした。
 

その、桃の花のバットの束をもって、おかんの施設にいった。

おかんは、大きなもんが、目の前にきて、とてもビックリ喜んで。
いろんな人たちも、桃の花みたさに、わらわら寄ってきた。
 
おかんは、勝手に立って転ぶと危険やので、施設になれるまでは、監視されている。
ガラス張りの部屋で、危険人物のフロアーにおんねん。
重度の障害者の人とかも収容されてて。会話もままならない部署にいる。
そこに、おおきな桃の花もっていったら、みんな、超コウフンしてん。
徘徊してるひととかも、本能で、超よってきてん。
 
じっとしてると、こみにけーしょんが、大変すぎるので、ぼくは、車椅子のおかんに桃のバットをもたせたまま、施設内をパレードした。
ハーメルンの笛吹きぽくなって。
職員の人たちもびっくり喜んで、おかんもぼくも、なんかに優勝した気分なった。
みんなに、お花をさわらせて、においをかいだりして。
知的障害の人でも、怖い目つきのおじいさんも、お花を乱暴にするひとは、おらんかった。
みな、明るい表情で、目をきらきらさせて、そうっと丁寧にしてくれた。
お花の力は偉大じゃった。
 

お歌のじかん。

夕方、リハビリをかねた、歌の教室があって。
カラオケのデータの入ったマイクで、みんなで童謡などを歌っていた。
言葉に障害があったり、調子悪い人ばかりやから、カラオケの点数は20点とかで。
おかんは、人前に出ない人やけど、今日は桃の花で目立ってたんか、先生によばれてみんなの前でマイクで歌うことになって。
おかんは「おぼろ月よ」をうたった。
80点じゃった。
ぼくは、「おぼろ月よ」は、おかんらしくていい曲やなと思った。
 
桃の花は、おかんのいる部屋の窓の、手の届かない場所に強引にくくりつけた。
ここは、徘徊や、私物の概念がない人もおるので、花瓶の水とか、シャンプーとか、手にして、食べてしまう人もいるから、私物の持ち込みは厳しいのじゃった。
じゃから、上に書いたように、ジップロックでがっちり水分とじこめて、何日かもつようにした。
施設の人も喜んでオッケーしてくれた。
その日、帰る時、食堂のちょっと遠くに座ってるおかんに「ばいば〜〜〜い!!」ってゆったら、食堂にいた障害者のひとたちが、「ばいばあい。」て何人もぼくにてをふってくれてびっくりした。
こんなに知らない人に、きさくにされた事無いから、びっくりした。すこし感動した。
 
今夜も、おかんは、桃の花を見てお布団にもぐったにちがいないよ。o(・Ω・